1人だけ試練の令和の出エジプト記は続く。
不眠のシナイ山を終えて、向かうはイスラエル国境とヨルダン国境を越える試練であり、それらをすべて無事にくぐり抜けてヨルダンのアカバにあるホテルに着いた時はすっかり夜に。
部屋にチェックインする間もなく、そのままレストランにて夕食。
とにかく無事にヨルダンまで辿り着き、ここまでくれば一安心と祝しながら夕食も終わり
「ようやくホテルでゆっくり眠れる日…」
と、日本からの移動の連続、そのまま夜半までのピラミッド探索と不眠不休のシナイ山の旅の疲れを癒さそうと夜22時過ぎにホテルの部屋へ。
よりによってリゾートホテルあるあるで、低層階の宿泊棟が異常に長細くて広いタイプのホテル…。
「あっ、私はここ」
「ここが私の部屋、おやすみなさい」
と次々に各部屋に皆が散っていく中、僕の部屋は端の端、ゴロゴロスーツケースを押しながらまだ着かない。
「なんだか今日は国境を越えたり1日中スーツケースを歩いて運んでいるなぁ」
と思いながらも、もうすぐその旅の疲れもひと段落と我が部屋をひたすら目指す。
「あっ、ここだ」
と、ロビーからかなり離れた部屋の前に到着してカードキーをかざし、いざ部屋に入ろうとすると
「ガタンっ」
とドアカードのロックバーが掛かっている。
「えっ?なんで?」
オマケに部屋の電気もついているのが見え、これはまさかダブルブッキング??
一応は5つ星ホテル、ヨルダンでもそんなことあるのか?
「(ドアをコンコンコン)ハロー?」
と部屋をノックしながらも呼びかけるも誰も反応しないし出てこない。
やはり空き部屋で何かの拍子にドアガードが動いて誰もいないのに部屋がロックされたのか?いや、そんなことあるのか?
とにもかくも、ヘロヘロになりながら、ようやく休めると思って部屋の前まで来たのに部屋に入れない。
トイレをもよおしているのに、いざたどり着いたら誰かがすでに入っている時のあの失望感。
これは自力で開けるのは不可能とみて、再びフロントへ戻る。
「部屋のドアにロックがかかっていて入れない」
と伝えると、フロントのお兄ちゃんも不思議な顔をしながら
「とにかくメンテナンススタッフを部屋に呼びますので部屋の前で待っててください」
と。
そして、また遠い遠い部屋まで戻り、部屋の前でスタッフ到着を待つ。
待つこと10分ほどして、工具を腰に巻いたメンテナンススタッフのおじさんがやって来る。
「カードキーを貸して」
カードを渡して、おじさんもドアを開けると
「ガタン」
と、やはり当然ながらドアがロックバーでひっかかる。
でも、おじさんは夜でも構わず
「ガタガタ、ガタン、ガタンッ」
とドアがぶっ壊れるのではないかと思うほど激しく開け閉めを繰り返す。
(後から聞くとホテルの廊下中に響き渡っていて何事かとみんな思っていたらしい)
こりゃダメだと諦めたメンテナンスおじさんは、工具を取り出して隙間からドアロックの解体にチャレンジし始める。
「えー?そんなレベル?」
苦戦しながら待つこと20分ほど、突如
「カランカランッ」
とドアバーが地面に転がる音が鳴り響く。
ニヤリと微笑むおじさん。
僕も
「おー、サンキュー」
と本来笑顔になるどころかホテルへ不満をぶつけてもおかしくはない状況なのに、おじさんのファインプレーに笑顔でお礼を伝える。
そして、2人でせーのでドアを開けると……
なんと誰かがすでに部屋を使っていて色々散乱している。
「え?どういうこと??」
メンテナンスおじさんも僕も立ちすくんで状況を理解できず、正気に戻ったおじさんがフロントへ電話をかける。
状況を見るに、どうやらダブルブッキングは間違いなく、たまたま1階だったので部屋の主はテラスから中庭などに遊びに出ていたようで、その合間時間に僕らが侵入した模様。
「いや、ドアロックぶっ壊しているし、え?これどうすんの?」
となりながらも、とりあえず部屋の外で待機してくれとなり、メンテナンスおじさんは証拠隠滅で再びバーを取り付け始め、僕はまた待つこと待つこと20分ほど、ようやくフロントからお兄ちゃんがやって来て
「すみません、システムエラーで部屋を間違えてカードを発行してしまいました。別の部屋に今から案内します」
と…。
こうして、もはやみんなが疲れ果てて寝静まっている頃に僕はゴロゴロとスーツケースを運び続けて永遠に休めない1日を過ごし、0時前にようやく自分の部屋に辿り着く。
「本当にスミミセン」
と、フロントのお兄ちゃんも謝っていたけど、とにかく部屋に入れたし、もうさすがに疲れも限界なので
「もういいよ、とにかくサヨナラ!」
とお兄ちゃんもフロントへ帰す。
前日から寝ずの移動だったので、さすがに眠かったけど、せめてものシャワーを浴びて、そのまま裸同然でベッドに倒れ込み気絶。
すると、夢の中で
「ドンドンドン、ドンドンドンッ」
と部屋を強烈に叩く音が聞こえる。
いや、夢ではなく、現実にこの部屋のドアが叩かれている。
時間を見ると、もう深夜0時は過ぎている。
何が起こっているのかわからず、ベッドから動けずに放置していたら
「ガチャッ」
と、なんとドアが開いて誰かが入って来る。
「……!?」
そこにはボーイさんが、フルーツセットを抱えて立っており、裸同然の僕がベッドにいるのを見るなり
「すみません、フロントからの指示でお詫びにフルーツセットを届けろと」
と焦りまくり、必死に説明をする。
「いらん!」
と、さすがに悲鳴のように叫び、ボーイさんもフルーツを抱えながら逃げ出すように去っていく。
「いや、お詫びするにもこの時間にフルーツを持って来るか?しかも、勝手に部屋に入るか??」
もはや謎だらけのヨルダンの5つ星リゾートホテル。
「まさかみんなもこんな目に…」
と思ったけど、翌朝聞いたら僕だけであり、なぜか1人大当たりで強烈な洗礼を受けたみたい。
ちなみにようやく眠れた朝からサイレンの空襲警報…。
令和の出エジプト記も楽じゃない…。














コメントを残す